JICAの不手際と現役隊員への影響:資金ショートによる予算不足

JICAの不手際と現役隊員への影響:資金ショートによる予算不足

ぼくがコロンビアに派遣されてから少し経ったとき、「JICAは今、予算が少なくなっています」ということを聞いた。

それは、突然のことだった。

僕らはすべて公金で補ってもらっているのだから、本当はその予算が減ったからって文句は言えない。

でも、実際問題、協力隊員はすでに固定額で決まっている生活費や住居費以外にも、任期中に追加的に金銭的な支援をお願いすることができる。それが、現地業務費というものだ。

JICAの予算が減ったことで、我々が制度上利用できるこの現地業務費の割当額が削られたようだ。

では、なぜJICAもしくは青年海外協力隊事業の予算が減ったのだろうか?

現地業務費制度とは、良い成果をあげるために申請することのできる、隊員の現地活動を支援する仕組みである

協力隊員の活動に関わるお金は、隊員を受け入れている配属先が賄うのが基本である。

たとえば、僕の場合で言えば、農村への交通費だ。

登りは1時間くらい、下りは30分。自分は汗だくでも、お腹ポッコリの農家さんはへっちゃら。習慣というのはすごいものだなと感心する。写真中央に見える茶色い集合がこの街の中心街で、農家さんが映っている上あたりにかすんで見えるのが、ぼくが暮らしているブカラマンガ市

ぼくはブカラマンガ市という大都市に住んでいるが、農村はバスで45分ほど走った2つ先の街にある。さらに、その街から、農村へと登る乗り合いバスに乗らなくてはいけない。

行ったら、当然帰って来なくてはいけないので、往復の交通費が必要になる。

額はそれほど大したことはない。日本円にすれば、1回農村に行くのに、配属先が支給してくれる額は1800円くらいだ。

しかし、ぼくは野菜栽培隊員であり、農家さんの数は90農家、対象農村は7農村。農家さんの家は点在しており、3家族が近くに住んでいることもあれば、隣の家まで30分くらい山道を歩かなくてはならないこともある。だから、1度に訪問できる数は、3農家もしくは多くて4農家ほどである。

単純に計算してみると、90農家 ÷ 3農家/日=30日 

すべての農家さんの家や畑に訪問するだけで、30日かかるのだ。1カ月である。ただし、月曜日は配属先でミーティングがあり、土日は休みであることを考慮すれば、おおよそ2カ月かかる計算になる。

毎週火曜~金曜まで、朝6時に家を出て、農村内を歩き回って、3農家を訪問して、夕方の6時に家に着く生活を毎日しても2カ月かかるのだ。

文字や数字で見ると、「できそうじゃん」と思うかもしれないが、体力的にも精神的にもコレはなかなかツライ。今となってはぼくも、すべての農家さんの家を訪問することができたが、全部知るまでに1年ほどかかった。安全上の問題で、最初の1年くらいは個人行動が許可されなかったからだ。

こういう現状を鑑みて、ぼくはすべての農家さんと一緒に働くことは無理だと理解した。それで、農家訪問は行わず、特定の農家さんと働くようにした。ちなみに、同僚の農業技師2人が農家訪問をして、助言をしている。

以前活動に関して、関連する記事を書いた →→ より良い結果を得るためには、対象者を選別することも大切

今回のテーマは「お金」なので、銭の話に戻そう。

1回の農村訪問で(計算しやすいように)2000円かかるとしよう。対象農家すべてを訪問するのに、30回かかる。

そのため、総額 2000円 × 30回 = 60,000円 6万円かかるのだ。

日本でもなかなか大きな額ではないだろうか?一緒に働いている同僚たちの月給と同じだ。コロンビアでの6万円の価値はとても高い。「パソコン12万円するよ、日本では」と言うと驚かれる。コロンビアでは3万円くらいで同じ機能のモノが買えるからだ。

どういう成果をあげてくれるかわからない、まだ語学もままならないボランティアに対して、コロンビアの組織が「ポンッ」と払えるような額ではないことだけは確かだ。

同僚たちは、ワークショップを行うとき、1人で十分なのに、2人3人で行ったりするのだが、ぼくは配属先のプロジェクト資金の面を気にして、1年目以降はあまり同僚たちに不必要に付き添うことは止めた。だって、年度末に毎回「資金が足りなくなったから、来年度分を前借できないか?」みたいな話をしているのだもの。

こういうときに、協力隊員はJICAに対して、「現地業務費」という制度を利用して、活動を行うための資金援助をお願いすることができる。

『お願いすることができる』ということは、断られることもあるということだ。当然だ。お金の使い道はしっかりとしなくてはいけないのだから。

だから、ぼくは2年間ある活動期間のうちの1年半目くらいまで、現地業務費を申請したことはなかった。

配属先でミミズコンポストを始めるための容器2つも、面倒だから配属先やJICAに費用負担を依頼せずに、自分でホームセンターに行って買ってきて始めた。額としても、大したことはない。ミミズコンポスト以外の雑費も含めて、諸々で累計総額2万円に届くか届かないかくらいだ。

残り5カ月くらいになったタイミングで、農村訪問費用として約1万円分の負担申請を行い、モデル農家へ訪問した。モデル農家の現状を確認し、さらにその先のビジョンを思い描くためだ。

このように、現地業務費という制度を利用することで、JICAに費用面で活動を助けてもらうことができる。配属先によっては、資金が全くなかったり、移動手段がなかったりするため、「隊員がそもそも活動フィールドに行けない」というケースも多くあるのだ。そういう際に、この現地業務費は大きな助けとなる。

この現地業務費制度が、1番資金不足のダメージを食らっている

活動はできる限り、受け入れ先の配属先に隊員の活動費用を負担してもらうことが原則だ。

でも、お金の価値が違う途上国ではなかなか難しい側面もある。それこそ、職種や活動に内容による違いは大きいと思うが。

たとえば、毎日学校や専門学校、大学などのある程度固定された場所で活動している隊員の場合、移動費などが発生しにくい。だから、それこそ「教材に使う模造紙や硬い紙、ペンを買う費用が必要」という程度かもしれない(そうじゃなかったら、これらの職種の方ごめんなさい)。

でも、野菜栽培やコミュニティ開発などのような巡回が必要な職種の場合、いくら配属先が隊員に給料を払う必要がないからと言っても、移動費などの負担はかさむのだ。だから、自腹を切ったり、JICAに支援をお願いするしかなかったりする。 

コロンビア隊員の場合、車・バイクの運転禁止、バイクの二人乗りも禁止、自転車に乗ることも禁止なので、基本的に足がない。それこそ、バスとタクシーだけだ。でも、協力隊がわざわざ派遣されて、さらに巡回が必要な活動を行わなくてはいけない地域にはバスなど数本しか走っていないし、タクシーなんて存在しない。というか、僕の場合タクシーは山道を登れないから、不可能だ。だから、ぼくはお金を節約するために、朝7時にバスに乗って農村へ上り、お昼過ぎの2時くらいの最終バスで降りてくる。それでも、家に着くのは夕方の6時近くになるけどね。場合によっては、農家さんの家に泊めさせてもらって、次の日の午後2時のバスで下ったりもする。それしか、効率的に活動を行う方法がないのだ。

この「JICAの予算が不足しているから、現地業務費で支援できる額も少なくなります。ご理解お願いします。」というアナウンス。

ぼくはてっきり、青年海外協力隊の事業を縮小している最中なのだと思っていた。

徐々に派遣する人数を減らす過渡期にあるから、今の派遣中の隊員を支えるための予算が十分ではない、と。

でも、どうやらそうではなかったらしい。

これについては、事の重大さのわりに記事や報道が圧倒的に少ないので、何か情報統制されているのかもしれないが、どうやらJICAの予算申請に不備があったようだ。

唯一発見できた記事 →→ 予算管理で異例の「不手際」 JICA見直し論も再燃か

数年前に2つの組織が統合して、現在のJICA体制になったのだが、なかで連携が取れてなかったらしい。「らしい」というのは、ぼくが事実をはっきり認識できるほどの情報をもっていないからだ。

でも、その不手際は、青年海外協力隊事業よりも、開発コンサルタント企業へのダメージのほうが大きいことは確かなようだ。

企業へ発注していたプロジェクトや採用した案件に対して、お金が払えなくなったからだ。

つまり、企業が「1000万円のプロジェクトに採用されたから、今年はこれをがんばるぞ」と思っていたら、JICAが「すみません。1000万円なかったです。”もし可能なら”立て替えで、プロジェクトを進めてもらえませんか?」と企業にお願いする形になったのだ。パワーバランスは、JICAが親で、委託企業が子だから、そうに言われたら立て替えで進めていくしかない。

これが、開発コンサルタント界隈で話題になった問題だった。

お金を払えばオンラインでも記事が読めるのだが、ぼくはそこまでする気はないので、pdfを見つけた。

うまくいけば、このpdf でその記事が読める →→ JICAの資金ショート問題

ダウンロードができる環境なら、読めます。

まぁ、不要な出費を減らしていきましょうよ

必要な部分にお金を使い、不必要な部分は削減する。

それは、当然の流れである。

コロンビアの場合、ぼくの任期1年目の年は、壁掛けカレンダーと卓上カレンダーが各隊員に「広報用」として支給されていた。

ぼくは配属先の同僚に渡したので、みんな有難がって、質の良いその卓上カレンダーを利用していた。これはとても良い広報になっていたように思う。壁掛けも入り口の近くに掛けられていたし、写真の質も良かったので目に留まり、JICAについて質問されることがたびたびあった。

これが、すべて2年目の年はなくなった。予算がないからだ。予算がないなら、仕方ない。ないものは作れないのだから。

でも、僕以上に同僚が残念がっていた。卓上カレンダーは特に、使い勝手もよく、カレンダーを見て日にちを確認しながら計画を立てるのに、もってこいだったからだ。みんな、会議があると、その卓上カレンダーを持って会議に臨んでいた。”良いモノ”は大切に扱うコロンビア人らしい光景だった。

それと、もうひとつなくなりそうなもの。

それは、紙媒体のJICA広報雑誌だ。これ、月間雑誌なので、ぼくの印象だとさすがに各月はないが、2か月分くらいがまとめて郵送で、コロンビアの僕のもとまで届く。郵送費結構かかりそうだな~と思っていた。

それが、つい最近、どうやらデジタルに移行しようとしている流れがある。pdfで送ってくるということだ。

まぁ、いいんじゃないだろうか。デジタル化

個人的に、この雑誌あまり読んでいない。

数カ月前の雑誌で「農業特集」があったのだが、その内容のほとんどがコミュニティ開発隊員のひとの記事だったので、とてもガッカリした。広く浅い内容のほうが、より多くの隊員の役に立つだろうと考えるのはわかるが、ときに狭く深い、専門性の高い視点から有益な情報を提供してもらった方が良いこともあるだろう。ぼくは後者の情報が欲しかったので、サッと職種だけ確認して、読むのを止めた。

あと、こういう掲載記事を書くときに、「良いことしか書かない」、「ギリギリ嘘にはならないような一瞬の出来事を、すべての活動期間そうだったかのように書いている」記事が多くて信憑性を疑ってる。*ぼくは、まず疑問の眼差しから物事をとらえるタイプです。

『あまり活動をしっかりできていなかったのに、記事には「とてもうまく活動できていて、成果もあがってきています」のように”見栄を張る”執筆者が身近にいた』という本当の話(噂ではない)を聞いてから、なおのことそのように感じるようになった。

これから頑張っていこうではありませんか

いずれにせよ、起こってしまったことは仕方ないのだ。

だから、これを機に、どこにお金を使うべきなのか、どこに使っていたお金は削減・節約することができるのかを考えることは大切なことだと思う。

ぼくは、JICAに感謝している。

世間やインターネットの世界のなかには、JICAを悪く言う人も多くいる。実際うまくいっていない部分もあるのだろう。

でも、ぼくは青年海外協力隊という制度を利用して、コロンビアで活動できていることにとても感謝している。

JICAも大変なものだ。世間からは「税金の無駄遣いだ」と言われ、JICAの制度を利用して税金で生活・活動している協力隊員という内側からも「JICAは融通が利かない」と言われるのだから。

板挟みになっているJICAに、同情している私です。

帰国したら、JICAがどういう援助を実際にしているのかとか、円借款の効果とか、そういう内政的な部分を勉強できたらいいなと思ってます。

Chao


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Chaito

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