有機農業では、なぜミミズが嫌われるのか?「ミミズがいる土は、未熟」という認識は未熟:ミミズには堆肥型と土壌型がいます

有機農業では、なぜミミズが嫌われるのか?「ミミズがいる土は、未熟」という認識は未熟:ミミズには堆肥型と土壌型がいます

僕は、ミミズが好きで、ミミズを手のひらにのせて眺めていたり、ミミズが交配しているところを1時間くらいずっと観ていたこともある。

1つの生物を好きであることは、決して変なことではないと思うのだが、ことミミズに関してはなぜか嫌われがちである。
それに結構誤解されていることもある。

みみずを扱う

はたから観ていると、僕はミミズが好きな人のように見えない。
と言うか、「あっ、この人、ミミズが好きそうだな。。。。」という人がいたら、こわい。


僕はミミズが好きだし、彼らに関わる研究には強い関心がある。
だから、日本語で「ミミズ」に関する本はほとんど全て持っているし、読んだことがある。
なかには、ミミズとタイトルにあるのに、ミミズについてほとんど扱っていないものも多い。
そういうこのブログも「みみずの国際協力」とうたっておきながら、ミミズについて扱った記事は少なかった。



だから、少し取り扱ってみよう。

「ミミズがいる畑は未熟な畑」という腑に落ちない話


最近、農業の現場に出かける機会が増えた。
それによって、おかげさまでたくさんの一流の農業者とお会いすることができ、その考えや技術的なことを知ることができている。

そのように現場に出ると、「ミミズがいる土は悪い土だ」と言う人が意外とおおいことを知った。
特に、50代以下の若い生産者の方で、そのように主張する人が多い気がする。
それらの若い生産者は情報通なので、どこかで「ミミズがいると良くない」と説明している情報源を見かけたのだろう。


世界では、農地の持続性を維持していくためにはミミズなどの土壌生物が大切で、どのようにしてそのようなコンディションを整えていくかを議論している。
その考えのもと、世界的に国連のFAOも提唱しているのが、不耕起栽培と土壌の有機物被覆(カバークロップや植物マルチなど)だ。
熱帯において、平方メートルあたり30gのミミズがいると作物の収量が増えるとする研究もあるし、
ミミズがいると収量が増えることは、世界的なメタアナリシスでも明らかになっている。

There are 53,000  earthworms per acre of land. These worms play a huge role in keeping your lawn and garden green.



それはつまり、簡単に言えば、「ミミズがたくさんいると土壌が良くなり、直接的間接的に作物の生育が促進され、収量が増える」と言うことだ。


でも、なぜか日本ではそうではないと考える人がとても多く、世界の研究者や農家の認識とは逆行している。
ミミズがいると、畑は悪くなる らしいのだ。

ミミズには大きく2タイプいる;堆肥型と土壌型

【野菜】と呼んだときに、果菜類、葉菜類、根菜類とあるように、
【ミミズ】にも堆肥型と土壌生息型がある。

堆肥型ミミズの中ではそれ以上細分化されることはないが、土壌型ミミズはさらにそのなかでもう少し分かれる。
でも、それはまた後で。

果菜類の野菜と言った際に、ナス科・ウリ科とあり、その植物としての生理が違ったり、管理の仕方が違うようなものだ。
ミミズの場合、みんな「ミミズは何か」を知っているが、「ミミズがどういう生物か」を知っている人は多くないのだ。
それだけ、メジャーな生物でありながら、認識レベルはマイナーなのだ。


嫌われものの働き者 とは、まさにミミズのような者だ。

堆肥型ミミズは人為的な環境に住むことができ、環境の攪乱に強く、養分の多い有機物を好む

ミミズには、環境の攪乱に強い堆肥型ミミズがいる。
きっと、多くの人にとって馴染みがあるのは、こっちの堆肥型ミミズだと思う。
このミミズは、シマミミズなどと呼ばれ、釣り餌として販売されていたり、生ゴミ残渣の山や家畜フンのなかにいたりする。
養分の多い有機物を食べるタイプだ。
そのため、動物や人間の環境に順応しており、我々のおこぼれ(ゴミ、排泄物など)を餌資源として生活している。
ミミズコンポストのように、生ゴミや有機廃棄物を処理することができる。
堆肥型ミミズは、手に乗せてもなかなか死なない。
そのくらいストレス耐性がある。
作物残渣や家畜フンに勝手に自然発生する小さいミミズは、この堆肥型ミミズ。
堆肥型ミミズは攪乱に強いので、彼らの本拠地を物理的にひっくり返しても問題なく生きている。

土壌型ミミズは、自然状態のような環境変化が少ない場所に住み、環境攪乱に弱い

沖縄のミミズ。本州では西日本の方に、シーボルトミミズという紫色のミミズがいる。畑には流石にこのサイズのミミズはいないです!

一方、森林や草原などに住む大きなミミズは、人為的な攪乱に弱い。
つまり、人間が彼らを飼うのは難しい。そして、大きめであることが多い。

堆肥型ミミズが、人の影響を受けても生活できる東京人混み型だとすれば、
土壌型ミミズは、自然のなかでゆっくり生活していたいのんびり田舎暮らし型だ。


先述した海外では称賛されているミミズというのは、こちらの土壌型ミミズである。
この土壌型ミミズが、畑にたくさん住むことができれば、善いことであるわけだ。


しかし、土壌型ミミズは攪乱に弱い。
攪乱とは、彼らが頑張って創ってきた住みやすい環境が乱されること。
森林や草原、イメージしやすいところでは公園の芝生は、滅多に人間を含む他の生物にぐちゃぐちゃにされることはない。
綺麗に刈りそろえられた芝生の上に、時々ポコっと土が山になっているのを見たことがあると思うが、あれは土壌型ミミズの糞である。
鳥たちは、あの糞があるところにミミズがいることを知っているので、雨が降った翌日は芝生の上を歩き回って、ミミズを捕らえてたべようとしているのだ。


増えたら嬉しい土壌型ミミズだが、残念ながら、日本のほとんど全ての畑では生活することができない。
なぜなら、定期的にトラクタなどで天地がひっくり返り、さらには刃で裁断されるからだ。
だから、増えてほしい土壌型ミミズは増えるどころか、生息することさえできない。

日本の農地では土壌型ミミズが住めないのに、海外で住めるのは農地を耕さないようにしているから

日本の農地では、土壌型ミミズが住むことができない。
それは、農地の管理の仕方によるものだ。
土壌型ミミズが住めない環境を農家が創っているから、ミミズが住めないのだ。

黒ぼく土という肥沃な土壌に慣れている日本人は、自分たちが土壌の肥沃度を低下させているということに気づきにくい。
それに、日本の農業技術は世界一と思い込んでいる節が強く、海外の農業技術を見ようとしないので、どういう管理があるのかを知らない。


世界では、不耕起という耕さない管理が主流になりつつある。
この場合の世界というのは、欧州だけでなく、南米、オーストラリアなども含んでいる。
世界の農地の20%近くは、もう耕していない。

そういう畑では、土壌が不自然にひっくり返ったりすることはないので、土壌型ミミズが生息することができるわけだ。



世界的な流れから言えば、
土壌を守るために耕さない管理を行い、そういう管理を行うとミミズや土壌生物が増える(流行りの言い方をすれば、生物多様性が増える)ので、ミミズや微生物などの土壌生物が本来持つ機能をうまく作物生産や農地利用に利用していこう
と将来的な農業の流れが出来上がってきている。

人間が全てを管理するのではなく、土壌生物や植物を管理することで、それらの生物に農地を自然な状態でよくしてもらおうとしているのだ。
それだけ、人間が管理をすると悪くなってしまっていた ということでもある。
だから、ミミズはホットな研究対象だし、良い指標になってきている。


歴史の教科書で、三圃式とかいう輪作体系の中に休閑(何も栽培しないで畑を休ませる)が組み込まれたものがあっただろう。
また、農家さんは、時々「畑を休ませる」とし、何も栽培せずに、雑草を生やしたりする。
そういう風に畑を休ませると、自然と畑の状態が良くなる=自然の力によって土壌が改善される ことを経験的に理解しているわけだ。

『自然が自然(土壌)を、人間よりも上手に管理できる』のは、当たり前と言えば当たり前のことなのだが、よく耕した何も生えないような”不自然な”畑に慣れてしまった我々は全てを管理したがってしまうのだ。

日本の農家が指すミミズは、堆肥型ミミズ

ここまでずっと説明だったので、本題に入ろう。



日本の農地では、自然農法をのぞいて、基本的に慣行農業であろうと、有機農業だろうと畑はよく綺麗に人工的な環境になっている。
同じサイズの粒子が裸になっていて、土壌の表面を覆うものはなく、あったとしてもプラスチックのマルチだ。

ここまで不自然な環境が広がっているのは、それはそれで観ていて面白いものだ。


ここまで説明してきたように、そのような人工的な環境では土壌型ミミズは生息することができない。
土壌環境を整え、収量を増やすことができる土壌型ミミズはどれほど探しても見つからない。
見つかったとしても、周りの畔から迷い込んだミミズだったりするのが常だ。

そのため、現状の農地で土壌型ミミズを見ること自体、そもそもほとんどないと思うのだが、
「ミミズがいる土は未熟な土」という主張をきく。



きっと、有機農家などが指すミミズと言うのは、堆肥型ミミズのことだろうと思う。
未熟な有機物を好む堆肥型ミミズが、非完熟堆肥の投入や最近の未熟有機物の畑への投入に伴って、一緒に畑にやって来たのだと思う。

未熟な有機物を畑に投入することは、病害虫の発生や病原菌の持ち込み、悪臭や汚水の原因になるのでやめたほうがいいのだが、有機農業は「有機物を投入すればいい。有機物であれば、いかなるものも自然で、悪さはしない」と考えやすいため、あまり細部までこだわっている(理解している)生産者は多くないように感じる。


そのような未熟な有機物と一緒に投入される堆肥型ミミズは、本来の畑であれば、餌資源がないので死んでしまうのだが、未熟な有機物が多い畑ではそのままそこに定着することができてしまう。

イメージとしては、
生の牛糞に住んでいた堆肥型ミミズが、その牛糞と一緒に畑に投入され、継続して定期的に畑には牛糞が投入される
といった感じだ。
そのように、堆肥型ミミズが好む餌や生活環境が提供され続ければ、問題なくそこに住むことができる。


これが、日本の有機農家が言う
「ミミズがいる土は未熟な土」と言う発言に対する真面目考察だ。



正しくは、「堆肥型ミミズがいる土は、未熟な有機物が多く存在する未熟な土」である。


そもそも、堆肥型ミミズは畑ではなかなか生息できないタイプのミミズだ。
養分豊富な餌が畑には存在してはいけないからだ。
だから、堆肥型ミミズの働きを利用して生ゴミなどを処理するミミズコンポストの肥料(ミミズ堆肥)を畑に施しても、たとえそこに堆肥型ミミズが混じってしまっていたとしても、畑で死んでしまうので悪さをすることはないから問題ないのだ。

でも、そこの畑に未熟な有機物(野菜クズや家畜フン、未熟な堆肥もどきなど)があれば、本来居てはいけない堆肥型ミミズが生息できてしまう。
そのような環境は、ミミズが好きな僕からしてみても、「未熟な土」と言わざるをえない。

畑で増やしたいのは、堆肥型ではなく、土壌型のミミズちゃん

最近は、どういう理論なのかわからないが、未熟な有機物を畑に投入する栽培方法が多い。
その管理が正しいとは、僕は思わないのだ。

畑で増やしていいのは、土壌型ミミズであって、堆肥型ミミズではない。
そして、大概の場合、農家さんが言うところの「ミミズ」と言うのは、堆肥型ミミズである。


土壌型ミミズを増やしたいのであれば、
・農地をなるべく攪乱しないこと 
  →不必要に耕さないこと
・土壌の表面を有機物で被覆すること 
  →刈り草や稲わら、カバークロップや雑草など生死は問わない。むしろ、生きた植物があるほうが土壌型ミミズに餌が供給されやすいので良いだろう


そういうような管理は保全農業と言う。
この管理は、日本では全く聞かないが、世界的な流れからしていつかは日本にも入ってくる土壌管理だ。
遅かれ早かれ、日本の農業も耕さないようになっていくと思う。



人類の歴史が農耕の歴史だったように、耕すことをやめることはなかなか難しいのかもしれないが、僕は将来的に今学んでいることを元に農業をしたい。
それを特別他人に強要する気はないが、良いものは残り、良くないものが廃れていくのは当然の摂理だ。

僕はミミズが好きなので、堆肥型ミミズでミミズコンポストをしながら、畑には土壌型ミミズが増える管理で生産していきたい。
彼らは寝ないので、僕が休んでいる間も代わりに働き続けてくれる。



気づかれていないだけで、ミミズは良い働き者だ。


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Chaito

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  1. By Sohei

    はじめまして、
    現在、コロンビアに滞在しています。旅行者です。

    宿にてネットをしていましたら、思いがけずとても素晴らしい記事に出会えたので、思わずコメントを残したいと思ってしまいました。個人的な話で申し訳ないですが、読み流していただけたら幸いです。

    私自身、これまで農業を勉強してきたと言うわけでもないのですが、田舎育ちで幼い頃は田んぼや畑に囲まれた環境で過ごしました。記事を拝読して幼い頃に好きだったミミズの事を思い出し、とても懐かしい気持ちです。

    私は現在34歳になりますが、長いこと販売業に従事し続けてきました。アウトドア関連の商品を扱う仕事でしたが、職業柄、登山やカヤックなど自然と関わる機会の多い職業でした。

    もちろん好きでやっていた職でしたが、その中でより自然に、もっと言えば土に近い仕事をしたいと考えるようになりました。

    今回、じゅんぺいさんの記事を読ませて頂いて、目を見開かされる思いと、自分自身の志向を改めて感じた次第です。

    長年農業に従事してきた私の叔父の姿や、取り沙汰される日本の農業の諸問題を俯瞰してみると、とても厳しい世界だと思います。

    それでも私は、日本の農林業の世界に身を置いてゆきたいと考えています。なんと言いますか、取り留めもなくなってしまったのですが、とても勇気をもらえる記事でした。

    ありがとうございます。

    • By じゅんぺい

      Soheiさん
      素敵なコメントありがとうございます。
      こちらこそ、率直なコメントにうれしく思います。

      ミミズをはじめ、土や自然というのは日常を包むとても身近なものでありながら、「身近であるがゆえに、気づきにくいもの」でもあると思います。
      「在って当たり前のもの」に価値を見出すことは容易なことではないと思いますが、何かちょっとしたきっかけがあれば、新たな視点や発見によって価値を見出すことができることもあるでしょう。
      そういった想いから、ミミズについての導入的な話を記事にしてみました。
      日本では農林業が厳しいですが、いろいろな課題があるからこそ、そこに新たなアイディアでチャンスを見出しているひとをよく知っているので、僕自身は結構可能性に満ちた気持ちでいます。

      コロンビアの情報を観ていたところだったと思いますが、このようにミミズや有機農業の内容にも目を通していただけて、うれしいです。
      勇気をもらえたのは僕のほうです。

      これからのご旅行も、安全に充実したものになることを願っています。

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